TCフォーラム研究報告2022年5号【2022年8月公表:9月改訂版】

TCフォーラム研究報告2022年5号【2022年8月公表:9月改訂版】
アメリカの政教分離課税の原則
~政教分離の壁を高くする税制のあり方を探る~
ぬるま湯の政教分離で崩壊する民主的憲法秩序
石村耕治(TCフォ-ラム共同代表/白鷗大学名誉教授)

アメリカ合衆国憲法や諸州の憲法は、政治と宗教の分離(政教分離)を徹底することで、信教の自由を保障するモデルを採用しています。わが国の憲法も、同じようなモデルを採用しています。このモデルは、「宗教とは集団的ノイローゼ」といったフロイト流の考えに基づくものではありません。
護憲とは、信教の自由を護るとともに政教分離の徹底を求めるスタンスでないといけません。
アメリカ税法は、宗教団体への宗教活動や宗教施設などには税金をかけないこと(課税除外/免税)にしています。ただし、課税除外にする条件の1つとして、宗教団体が①公職選挙運動/公職選挙キャンペーン活動 /集票活動/electioneeringや②過度な議会・議員工作・立法活動/ロビイング/政治広報活動excessive lobbying or influencing legislation(以下「①と②を一緒にして「政治活動」」)をしないと約束するように求めます。これが、いわゆる「政教分離課税の原則」と呼ばれる税法上のルールです。
「政教分離課税の原則」は、憲法の政教分離原則を徹底するためのルールです。政治活動大好きな宗教団体には宗教活動に課税しようというものです。
アメリカ税法上の「政教分離課税の原則」は、「宗教団体にも政治活動をする自由がある」との主張を否定するものではありません。どうしても政治活動をしたい宗教団体は、宗教活動所得(喜捨金/寄附その他の投資所得など)への課税を覚悟してやるべきだというスタンスです。あくまでも、宗教団体が、税制上の支援措置(課税除外支援)を受けた宗教活動収益を政治活動に使うことにならないようにすることがねらいです。
わが国での政教分離課税の原則の導入については、賛否が分かれるかも知れません。課税権力が強くなりすぎることが心配されます。宗教団体以外の非営利公益団体にもエスカレートするのも危惧されます。政治活動が大好きで政教一致が当り前の宗教団体や、憲法が求める政教分離原則をないがしろにするのは当り前の政治家や政党にとっても、厄介な原則かも知れません。
政教一致が厳しく問われても、既得権益ファーストで、沈黙は金、小手先の対応で逃げ切ろうとするわが国の土壌には合わないかも知れません。
とはいっても、ぬるま湯の政教分離で、「宗教カルトでも正統派でも、票をくれる宗教はご利益ある宗教だ」というなりふり構わないという政治姿勢では、民主的な憲法秩序は音を立てて崩れてしまいます。現代のアメリカはそういう状況です。政教分離原則や政教分離課税の原則が確立されているのに、このルールを骨抜きにしようということでは、まさに政教一致の状態です。
大衆を扇動する、コンプライアンス違反や政教一致は当り前の鎮まらないトランプ現象に民主主義の将来を危惧する市民や識者は、連邦司法省(DOJ)の英断に加え、連邦課税庁(IRS)の政教分離課税の原則の徹底を期待する声を強めています。政教分離の徹底に立法府も司法府も優柔不断で頼りにならない、政教分離課税の原則を武器にして行政(IRS)に頑張ってもらうしかない、というわけです。
TCフォーラム研究報告2022年5号では、石村耕治代表委員・白鷗大学名誉教授が、アメリカ税法上の政教分離課税の原則に焦点をあてて研究報告をしています。問題事例にメスを入れ、この原則を支える法制や執行の仕組み、執行の現状、司法判断などについて点検、紹介しています。
ぬるま湯の政教分離で崩壊するわが国の民主的憲法秩序のゆくえを探るうえでも貴重な研究報告です。

TCフォーラム研究報告2022年4号【2022年6月公表:9月改訂版(2訂)】

TCフォーラム研究報告2022年4号【9月改訂版(2訂)】
時機を得た自動物価調整税制導入
~生活者向けの究極のインフレ税退治策~
インフレ税を放置しない! タックスインデクセーション導入のすすめ!!
石村耕治(TCフォ-ラム共同代表/白鷗大学名誉教授)

世界の懸念は、コロナ禍からインフレへ大きくシフトしている。庶民の生活を犠牲にし、インフレを放置すれば、税収が自然増加し、国の借金の解消につながる。こうした政策の継続は、生活者、とりわけ低所得者や年金生活者を窮地に陥れる。だが、与党は、インフレを放置し、所得減税も消費減税も口にしない。野党も、見せかけのインフレ税対策を掲げるが、その本気度が問われている。
インフレ税退治は、大きく所得課税と消費課税の面から検討できる。
憲法上、納税義務の変更は法律の手続によることを求める。憲法84条は、「新たに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と定めているからである。アメリカなどでは、「代表なければ課税なし(No Taxation without representation)」という。このことから、物価上昇により納税義務を増加し~現行の租税が変更され~当該納税者の実質所得が減少する場合、それが国会の議決を経ずに行われることになるとすると、租税法律主義の形式主義的な要請にふれることになる。
国庫が赤字財政下にあり税収が必要であるとしても、租税法律主義が支配する憲法構造のもとでは、政府は「隠れたインフレ増税」によるべきではない。納税者にその理由を明らかにし、国会の議決という「投票による増税」を行うように求められる。インフレ増税ではなく、この正規の「投票による増税」は、「物価中立所得税制」の確立、すなわちタックスインデクセーション/自動物価調整税制も導入によって確保できるのではないか。世界の多くの諸国では、すでにタックスインデクセーション/自動物価調整税制を導入している。もう導入の是非について不毛の議論をしている段階ではない。
カナダでは、1974課税年から連邦個人所得税にタックスインデクセーション/自動物価調整税制を導入した。アメリカでは、当初、所得税制を導入する州でタックスインデクセーション/自動物価調整税制を導入した。連邦は、1981に税制改正で個人所得税制にタックスインデクセーション/自動物価調整税制を導入し、1985年に実施した。
アメリカ連邦の個人所得税では、前年分の所得または還付につき翌年4月15日までに確定申告をする仕組みになっている。例えば2022暦年分については、23年4月15日が申告期限になる。連邦財務省やその外局にある内国歳入庁(IRS=Internal Revenue Service)は、毎年、納税者が前年分のインフレ率(CPI)を翌年分の所得税の計算・申告に反映できるように、調整項目にかかる数値を公表する。
2022暦年分について、IRSは、2021年11月10日に、レベニュープロシージャ―20-21-45で、62項目にわたるインフレ調整金額を公表している。項目一覧に目を通すと、インフレ調整は税率表や各種人的控除項目など幅広い項目にわたる。インフレにより税負担が増大しないようにきめ細かな対応をしていることがわかる。
このように、タックスインデクセーション/自動物価調整税制は、カナダやアメリカ、イギリスなど多くの市場主義を貫く諸国で、すでに着実に軌道に乗っている。
政治は、こうした先進各国での導入実績に目をつむり、行政のいいなりで、座して給料取りに徹していてはならない。生活者が政治に求めていることを「実行」しないといけない。急いで恒久的なインフレ税退治のタックスインデクセーション/自動物価調整税制実現のための税制改革を実現しないといけない。
実は、わが国でも、1981(昭和56)年に、当時の日本社会党が、「所得税の物価調整制度に関する法律案」が議員立法(堀昌雄ほか8名)をし、衆議院に提出している。
ということは、まさに「トライ・イット・アゲイン」である。政治は、再度チャレンジし、もっと磨かれた内容の議員立法を提案し、流れを変え、国民・納税者に少し恩返しをしてはどうか。先人の英知に学び、恒久的なインフレ税退治のためのタックスインデクセーション/物価自動調整税制の導入を、議院立法で是非とも実現して欲しい。加えて、消費税のインフレ税対策の実現も急がなければならない。税率引下げや消費税廃止も一案である。しかし、ゼロ税率の適用/採用も一案ではないか。「損税」対策にも資するからである。
わが国では、ゼロ税率を意図的に「輸出免税」と名付けている。しかし、とりわけイギリスやオーストラリア、カナダなど旧英国領諸国では、このゼロ税率を、「国内ゼロ税率」と名付けて、医療サービスや教育、さらには 生活必需品・サービスなどにも幅広く採用している。野菜や食料品、上下水道・ガス・電気などのサービスにゼロ税率が適用されれば、消費者はインフレになっても消費税負担は増えない。生活者は「インフレ税」をしっかり回避できる。また、売上げにゼロ%で課税されることから、事業者は仕入れにかかった税額の還付を求めることができる。こうしたことから、消費税については「廃止」ではなく、「生活必需品やサービスなどにゼロ税率(国内ゼロ税率)の採用/適用」を提案するのも一案である。
消費税への「国内ゼロ税率の採用/適用」を求めることには、財政当局が強い抵抗を示すかも知れない。しかし、消費税「廃止」よりは容易なのではないか?野党には、もう少し洗練された提案をして欲しいと願っている。学びが不足しているようにも見える。

ゼロ税率の効用については、本稿末に添付した以下のコラムを参照されたい。
【コラム】:消費税減税、廃止も一案だが、「ゼロ税率」のもっと賢い使い方も学んでおこう!!

TCフォーラム研究報告2022年3号(2022年5月公表)

<国・自治体の税・保険料取り立て業務デジタル化の人権問題>
~広がる反面調査・銀行照会業務のオンライン化~
石村耕治(白鷗大学名誉教授)

国や自治体(行政当局)による納税者や滞納者への反面調査や預貯金等の照会・回答業務の電子化/オンライン化/デジタル化(金融取引照会のオンライン化)がエスカレートしている。行政当局は、銀行などへの金融取引照会のオンライン化は、「デジタル化時代の流れで、利便性や効率もよい」と評価する。だが、主なターゲットとなる経済的にひ弱な納税者や滞納者の権利利益がむしばまれることのないように厳正な法的対応が必要だ。

オンラインの金融取引照会手続では、照会対象者の金融プライバシー、自己情報のコントロール権の保護を徹底しないといけない。照会手続を適正にし、システムも透明なものにして、憲法がゆるす水準のものにしなければならない。言いかえると、反面調査や預貯金等の照会については、最低でも納税者本人や滞納者本人の権利利益を侵害しないものでなければならない。また、反面調査や金融取引照会手続に納税者本人や滞納者本人を積極的に参加させる必要がある。このためには、行政庁に、反面調査・財産調査の開始にあたり、納税者本人や滞納者本人への事前通知をすることや、本人からのアクセスログ(反面調査履歴)の求めに応じるように義務づけないといけない。加えて、本人に苦情申出の権利を認める仕組みを整えないといけない。

今般の行政当局のよるオンライン金融取引照会には、NTTデータ(株)などIT企業が開発した仲介デジタルプラットフォームが使われている。納税者や滞納者の権利利益を護るには、IT企業が、ピピットリンクやDAISのような商標で提供するデジタルプラットフォームサービスを透明化し、第三者によるシステム評価を義務づけるなどの法規制も不可避である。

本報告では、金融取引照会オンライン化の動向と、国・自治体の税・保険料取り立て業務デジタル化における納税者や滞納者の手続上の権利利益保護の法的仕組みのあり方を丹念に探っている。
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