所得概念の再検討 (⽇本租税理論学会編 《租税理論研究叢書28》)

所得概念の再検討
⽇本租税理論学会編 《租税理論研究叢書28》
 研究叢書28
(財経詳報社、2018年12⽉) ISBN 978-4-88177-455-7、
3,024円(2,800円+税)

注⽂ページ

【主要内容】 イギリス型の支出税構想,ドイツの市場所得概念から,わが国の法人税法上の課税所得概念のあり方に至るまで、所得概念に関する研究報告を踏まえて、研究者と実務家が一体となって、多角的に討論を展開する。

【主要目次】
特別講演 名古屋市の市民減税条例
―自治体租税政策の羅針盤― 河村たかし

Ⅰ シンポジウム 所得概念の再検討
1 ミード報告にみるイギリス型支出税の意義と課題 川勝健志
2 法人税における課税所得概念の再検討 ―税務会計論から見た企業利益と課税所得の乖離の変容 依田俊伸
3 包括的所得概念の問題点と市場所得概念 奥谷 健
4 討論 所得概念の再検討

Ⅱ 一般報告
消費税増税をめぐる議論と課題 齊藤由里恵
会計学批判
―税法研究の現場からみる企業会計中心の会計学の問題点と一般会計学の提唱―
黒川 功

Ⅲ グループ報告 企業再生税制と事業再生税制の差異 藤間大順
法人税法における債務免除益課税の法解釈と制度の概要 峯岸秀幸
所得税法上の債務免除益課税問題
―遅延損害金の債務免除を中心として― 櫻井博行
債務免除益課税の諸問題
―判例等の状況を中心に― 木山泰嗣

日本租税理論学会規約
日本租税理論学会役員名簿 https://zaik.jp/books/455-71.html

【学会報告骨子】トランプ税制改革:私立大学内部留保課税の導入

トランプ税制改革:私立大学内部留保課税の導入icon_1r_24
~私大の過大基本財産投資所得課税の所在
石村耕治(白鷗大学名誉教授)

《内容骨子》
〇はじめに
I 今回の改正を知るための連邦非営利公益団体課税制度の基礎
1 アメリカの非営利公益団体法制と税制のあらまし
2 連邦税法上の「公益増進団体」と「私立財団」とは
3 規制税の課税対象となる取引や行為
4 中間制裁とは何か
II 非営利公益団体関係税制改正の要点解説
1 主な非営利公益団体関係改正点のポイント
2 私大の過大な基本財産から生じる投資所得への課税
III 私立大学内部留保課税の所在
1 連邦の内部留保金課税の構造
2 人的所有会社税
3 留保金税
4 全世界課税方式から領土内課税方式'テリトリアル課税方式(への移行IV 私立大学内部留保課税
1 私大の過大な基本財産から生じる投資所得への課税
2 私大の基本財産運営管理の仕組みと投資対象の多様化 3 私大の固定資産税代替協力金(PILOT)負担のうねり
4 州レベルでの私大の内部留保に課税する動き
V  私立大学基本財産をめぐる課税政策の展開と課題
1 大学の自治と課税権力
2 大学の基本財産に対する連邦所得課税除外措置と減収試算
3 連邦議会の私大基本財産投資所得課税の立法事由と経緯
4 私大基本財産投資収益課税の評価
〇むすび

この報告骨子は、日本租税理論学会第 30 回研究大会(2018 年 12 月 22 日)での一般報告「トランプ税制改革:私立大学内部留保課税の導入~私大の過大基本財産投資所得課税の所在~」のために、レジメ・資料として用意した未定稿(tentative)であり、内容等の正確性については、責任を負いません。[石村耕治]

 

【論文】アメリカの被災者支援税制の分析:若干の日米比較において

アメリカの被災者支援税制の分析~日米の税財政法上の課題の検証を含めてicon_1r_24
石村耕治著
白鷗法学18巻2号(2011年)

アメリカでは、大規模な災害が頻繁に起きている。2018年11月のカリフォルニア州での山火事、2017年8月末のハリケーン・イルマ(Hurricane Irma)や2005年8月末のハリケーン・カトリーナ (Hurricane Katrina) 、2001年の9.11同時多発テロなどによる災害(天災・人災)がよく知られている。アメリカにおいて大規模広域災害が発生した場合の被災者支援税制がどうなっているのであろうか。わが国でも、東日本大震災などを契機に、激甚災害が起きた際の被災者支援や復興をねらいに緊急かつ臨時的な税制上の支援措置が整備されてきた。こうした税制上の緊急支援措置は、大きく①通常の被害者支援税制と、②特別の被災者支援税制(tax relief for specific disaster)に分けられる。日米の制度比較を含めた「アメリカの被災者支援税制の包括的な研究」については、石村耕治JTI代表の論考が参考になる。



現代税法入門塾〔第9版〕

2018年4月【会員著書〔新刊〕紹介】
book201804
石村耕治 編
現代税法入門塾〔第9版〕
(清文社、2018年4月)
(A5判 904頁、 ISBN:978-4-433-63858-0  3,800円+税)

 《内容目次》
Part1 税法の基礎知識を学ぶ
Part2 租税実体法(実体税法)を学ぶ
Part3 くらしに身近な所得税法をくわしく学ぶ
Part4 国際税法を学ぶ
Part5 租税手続法(手続税法)とは何か
Part6 租税救済法とは何か
Part7 租税制裁法とは何か

アメリカ連邦所得課税法の展開

2017年5月【会員著書〔新刊〕紹介】
201705
石村耕治著
『アメリカ連邦所得課税法の展開:申告納税法制の現状と課題分析』
[白鴎大学法政策研究所叢書]

A5判 976頁 定価3,500円+税  財経詳報社 刊 (2017年3月)ISBN:987-4-88177-765-7

アメリカ連邦所得課税法制のもとで進化する申告納税法制の現状や重要な課題について、租税実体法、租税手続法の両面から検証。連邦の所得課税法制や申告納税法制をデザインする租税立法過程についても取り上げる。アメリカ連邦所得税法制の鳥瞰図を読み取ることができる。アメリ税制の研究を志す初学者、連邦税制を学びたい税務専門家や対米進出企業には必須の百科事典、「古典」となる労作。

《内容目次》
●第Ⅰ部 連邦所得課税の構造
◦1 連邦個人所得税法の仕組み
◦2 連邦法人所得税法の仕組み
◦3 代替ミニマム税の仕組み
◦4 連邦パートナーシップ課税法の仕組み
●第Ⅱ部 連邦所得課税法の展開
◦1 事業体の法形式の選択と所得課税:パススルー課税
◦2 営利/非営利ハイブリッド事業体をめぐる会社法と税法上の論点
◦3 留保金課税制度
◦4 余剰食料寄附促進税制〜食品関連企業の社会貢献と余剰食料寄附の促進
◦5 同性配偶者に関する課税取扱い
●第Ⅲ部 連邦の税務組織と租税手続法の基礎
◦1 抜本的な納税者サービス改革と納税者権利章典
◦2 進化する連邦課税庁(IRS)の組織
◦3 租税確定手続の基礎
◦4 連邦税務調査法制の基礎
◦5 パートナーシップ税務調査手続
◦6 連邦の租税徴収手続の概要
●第Ⅳ部 可視化する連邦租税手続
◦1 納税者に面談収録権を法認した経緯
◦2 納税者の面談収録権を法認した典拠
◦3 税務調査過程での面談収録
◦4 滞納/徴収過程,不服審査過程での面談収録権
◦5 租税犯則調査,査察過程の可視化
●第Ⅴ部 申告納税法制の展開
◦1 計算違い等を理由に不足額通知の適用除外とする場合の租税手続
◦2 民事・刑事同時並行調査の拡大と納税者の権利
◦3 合意による滞納税額免除/OIC制度
◦4 税務専門職制度の拡大と頓挫した申告書作成業者(RTRP)規制
◦5 連邦租税裁判所での訴訟代理と非弁護士司法資格試験制度
◦6 民間ボランティアによる税務支援プログラム
◦7 勤労所得税額控除(EITC)と税務コンプライアンス
◦8 政教分離課税制度〜政教分離の壁を高くするための税制とは
◦9 悪用に歯止めがかからない共通番号/社会保障番号
●第Ⅵ部 連邦の租税争訟制度
◦1 IRS不服審査制度
◦2 連邦民事租税訴訟制度
●第Ⅶ部 連邦租税制裁法制と連邦刑事租税訴訟
◦1 主な連邦租税民事制裁の概要
◦2 主な連邦租税刑事制裁の概要
◦3 連邦刑事租税訴訟の概要
◦4 民事租税制裁と刑事租税制裁との接点上の課題
●第Ⅷ部 連邦の租税立法過程および官職政治任用制度の検証
◦1 大統領制のもとでの連邦議会の立法プロセス
◦2 立法能力で競う議員
◦3 連邦議会の法案審議プロセスとは
◦4 連邦議会の租税立法プロセスとは
◦5 立法補佐機関とは
◦6 租税立法過程への直接参加とは
◦7 税務専門職団体によるロビー活動の実際
◦8 委員会による「議会の行政府監視」権能の行使
◦9 両院合同委員会
◦10 委員会報告書等の意義と課題
◦11 大統領の官職の政治任用と上院での承認
◦12 大統領令とは何か

現代税法入門塾〔第8版〕

2016年4月【会員著書〔新刊〕紹介】
現代税法入門塾〔第8版〕
石村耕治 編
現代税法入門塾〔第8版〕
(清文社、2016年4月)
A5判 864頁、 ISBN978-4-433-363856-6  3,800+税)

 《内容目次》
Part1 税法の基礎知識を学ぶ
Part2 租税実体法(実体税法)を学ぶ
Part3 くらしに身近な所得税法をくわしく学ぶ
Part4 国際税法を学ぶ
Part5 租税手続法(手続税法)とは何か
Part6 租税救済法とは何か
Part7 租税制裁法とは何か

国際課税の新展開

2015年10月【会員著書〔新刊〕紹介】
国際課税の新展開

日本租税理論学会 編  《租税理論研究叢書25》
国際課税の新展開
(財経詳報社、2016年4月)
A5 217頁、ISBN 978-4-88177-421-23,0242,800円+税)》

2014年11月2日・3日にわたり東京中央大学後楽園キャンパスで開催された日本租税理論学会第26回研究大会での、シンポジューム「国際課税の新展開」での問題提起論文および討論ならびに個別報告を収録した研究叢書。

《内容目次》
〇基調講演 リーマン・ショック後の国際租税制度と国際金融システム改革~タックス・ヘイブンとその存在がもたらす世界金融危機について
〇シンポ報告 居住地国課税原則をめぐる社会の変化と住所概念の現代的意義/電子商取引と国際二重課税/租税条約の適用を巡る理論的な問題点~平成26年度税制改正(AOAに基づく帰属主義の導入)後の国内税法を前提として/会計制度と税制のグローバル化の中での我が国の対応/通商的側面から考える消費税・付加価値税~米公文書からの考察/BEPSと国際課税原則~ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントを中心に/討論 国際課税の新展開)
〇個別報告 ドイツOrganschaft(連結納税制度)の最近の改正/法人株式控除制度にみる英国の配当所得課税における新たな展開/滞納者の預金差押えと滞納処分の執行停止~二つの勝利裁判を鑑定)

アメリカにおける営利/非営利ハイブリッド事業体をめぐる会社法と税法上の論点

石村耕治 著  米の営利非営利ハイブリッド事業体をめぐる会社法と税法上の論点pdf-icon

《論文の概要》

 金銭その他の財産を拠出するかたちで社会貢献活動を行おうとする場合、それらを拠出するビークル(vehicle)としては、従来から一般に第三セクターに位置する非営利/公益団体(non-profit charitableorganizations)が選ばれてきた。これは、わが国はもちろんのことアメリカ合衆国(以下「アメリカ」という。)などにおいても同様である。非営利/公益団体は、剰余金の分配を目的としない非分配事業体(non-distribution entity)である。ひとくちに非営利/公益団体といっても、人格のない非営利社団(unincorporated non-profit association)、公益信託(charitable trust)、非営利/公益法人(non-profit charitable corporations)などさまざまな類型がある。
 非営利/公益団体は、第三セクターで伝統を重ねてきた存在感や信頼性などから、金銭その他の財産を拠出し社会貢献活動をする際のビークルとして根強い人気がある。また、非営利/公益団体が選ばれる背景には、非営利/公益団体に対する税法上の手厚い支援措置の存在がある。しかし、非営利/公益団体は、非持分事業体であることから、活動資金の調達にエクイティキャピタルを活用できない。もっと市場機能や効率性を重視し、持分/株式発行などエクイティキャピタルの手法を駆使して営利事業活動を行い、その果実の全部または一部を社会貢献目的に費消、活用できる事業体/ビークルの法制を整備しようという動きがグローバルな広がりを見せている。
 こうした動きは、とりわけ市場主義経済を先導するアメリカにおいて加速している。しかし、アメリカの営利会社(営利事業会社/for-profit business corporation )経営においては、伝統的にコモンロー/判例法で確立された不文の「株主利益至上主義(shareholder primacy principle)」または「株主利益極大化主義(profit maximization principle)」(以下、双方を一括して「株主利益至上主義」ともいう。)が支配する法環境にある。このため、エクイティキャピタルを原資に営利会社を活用して社会貢献活動または非営利/公益活動をするには、これら伝統的な営利会社法上の不文の法理への気遣いが必要になる。場合によっては、会社経営陣が信任義務(fiduciary duties)を問われる可能性も出てくるからである。
 規範性を重んじる会社法や税法の硬直的な考え方は、市場機能や効率性を優先するソーシャルビジネス(社会貢献事業)の立上げに意欲的な社会起業家(social entrepreneurs)、さらにはや社会的責任ポートフォリオ投資(SRI=socially responsible investment)を望む社会投資家(social investors)、の現実のデマンド(demands)に真摯に応えていないとの声もある。(ちなみに、連邦国家であるアメリカにおいては、各州は、州法で会社法や非営利・公益法人法など私法を自在にデザインできる。単一国家である日本とは異なる。)
 社会投資家の要望に応えようということで、アメリカ諸州においては、伝統的な非営利/公益 団体や営利会社とは異なる、あるいは双方の特性を生かしたともいえる、社会貢献事業の受け皿となる新たなビークルを法認してきている。営利事業と非営利/公益活動(社会貢献事業)を「ツー・イン・ワン(two in one)」で行うことができるようなビークルの法制化をすすめてきている。社会起業家が、エクイティキャピタルの手法を駆使して営利事業活動を行い、その果実の全部または一部を効率的に社会貢献事業に費消、活用できるようにしようというわけである。こうした新たなビークルは、一般に「営利/非営利ハイブリッド事業体(for-profit/not-for-profit hybrid entity)」(以下、たんに「ハイブリッド事業体」ともいう。)と呼ばれる。「社会的営利会社(social primacy company)」、「社会的企業(social enterprise)」という呼び名も使われている。
 諸州が法認した新たなハイブリッドなビークルは大きく三つの分けることができる。一つは、合同会社(LLC=limited liability company)の仕組みを応用した営利/非営利ハイブリッド事業体、例えば「低収益合同会社(L3C=low profit limited liability company)」を法認する州である。一般に、L3Cは、助成財団/基金(非事業型の私立財団/private foundation)から出資を仰ぎたい場合に使われるビークルである。二つ目は、「社会益増進会社(B会社/B corporation=benefit corporation)」である。そして、三つ目は、社会目的会社(SPC=social purpose corporation)である。
   ちなみに、アメリカ諸州の合同会社(LLC)は、連邦法人所得課税取扱上、S法人(S corporation=small business corporation/小規模事業会社)特例課税(以下「S法人」という。)制度としてパススルー課税(pass-through taxation)【法人事業体の段階では課税されず、損益は配賦(パススルー)ができ、構成員/社員課税】の選択ができるようにデザインされている(内国歳入法典/IRC 1363条a項)。この結果、経済的二重課税を避けられる。日本の合同会社法制や税制では、法人と構成員との双方に経済的二重課税が行われるが、アメリカ法制や税制では、日本とは異なり、経済的二重課税が避けられる仕組みになっている。
   本論文においては、アメリカ法に傾斜するかたちで、まず、伝統的な非営利/公益法人の法制と税制を概観している。その後、アメリカの実業界で広がる合同会社(LLC)選択と連邦税法上の課税取扱について点検している。続いて、B会社や社会目的会社(SPC)のような諸州の新たな営利/非営利ハイブリッド事業体法制を類型別に点検し、その特徴を浮き彫りにする作業を行っている。その後、営利会社が社会貢献活動を行う場合に消極的に作用する会社法上の不文の法理や州会社法による対応、伝統的な非営利/公益団体に対する課税除外適格とリンケージした連邦税法上の分配禁止原則などについて分析している。

《論文内容目次》

◆はじめに~社会貢献活動のための事業体選択の現状
I  アメリカ諸州における営利/非営利ハイブリッド事業体法制の展開
1  社会貢献活動のビークルとしての「営利事業体」と「非営利事業体」の所在
2 アメリカの伝統的な非営利/公益団体法制の構造
(1)模範非営利法人法(MNCA)とは
(2)諸州の非営利法人法制
(3)連邦税法(IRC)による非営利/公益団体の標準化
3 アメリカの会社制度の多様化:LLC/L3C、B会社、SPC
(1)起業における合同会社(LLC)の選択拡大の現状
(2)C法人(株式会社)のS法人(パススルー課税)選択とは
(3)S法人適格の審査制度から届出制度への転換
4 社会起業家からみたハイブリッド事業体の法制と税制のあり方
5 諸州の営利/非営利ハイブリッド事業体の類型とその概要
II 営利会社の社会貢献活動をめぐる会社法と税法上の理論的課題
1 営利会社の社会貢献活動と株主利益至上主義の変容
(1)アメリカ会社法上の株主利益至上主義とは何か
(2)会社関係人利害考量法に基づく社会的目的を持った経営判断の是非
2 社会的営利会社とは何か~株主利益至上主義への挑戦
3 税法上の「私的流用禁止原則」、「私的利益増進禁止原則」とは何か
(1)税法上の「非営利/公益」要件
(2)「非営利」形態の濫用統制
(3)「私的流用」判定要素
(4)社会的営利会社と連邦税法令上のPIDとPBDの所在
(5)課税除外適格のある非営利合同会社(non-profit LLC)の可能性
◆むすびにかえて~社会貢献活動へのエクイティキャピタル活用の法的課題

二重課税とは何か

石村耕治 著     二重課税とは何かpdf-icon
 
 「二重課税」とは多義的な不確定概念である。インターネットの出現により、これまでの国境の存在を前提とした「現実空間」取引にかかる二重課税の概念が、急激に陳腐化してきていることは否定できない事実である。インターネットとパソコンで結ばれる国境(州境)の存在を前提としないあるいは国境(州境)越えの「電脳空間」取引全盛の時代を迎え、新たな二重課税の概念を構築する必要性も増してきている。
 そもそも電子商取引には課税すべきなのかどうかが問われている。「課税なければ、二重課税も発生しない」からである。また、電子商取引にかかる税源は、各国が分捕り合戦を繰り広げるのではなく、超国家的な課税(supernational taxation)を実施し、いわゆる「国際連帯税(global tax fund)」としてプールしシェアしあうべきであるとする主張もある。こうした主張に従うと、電子商取引にかかる税源は、二重課税の対応的調整/排除というよりも、「国家間配分(intercountry distribution)」が重い課題になる。
 また、二重課税を比較法的精査する場合、日本のような単一国家の場合と、アメリカのような連邦国家、さらにはEU(欧州連合)のような国家連合体との間には統治機構の仕組みに大きな差異があり、この点を捨象して考察するのは、不完全な分析にならざるを得ないことに留意すべきである。加えて、実定税法の枠内で議論される二重課税と、学問上ないし財政学で議論される二重課税の概念は必ずしも同一ではないことも織り込んで考える必要がある。
 近年、わが国では、二重課税を理由とした税務訴訟が散見されるようになってきている。しかし、司法も、行政も、そして納税者も、そもそも〝二重課税とは何か〟についてさほど深く踏み込むことなく、審理が展開され、判決というかたちで公定解釈を確立させてきている。ただ、国民・納税者が納得できる概念を定立したうえで的確な裁断が下されなければ、いわゆる〝言葉の遊び〟が闊歩することにもなりかねない。
 二重課税についての法解釈のあり方も問われている。二重課税に対応する実定規定がないのにもかかわらず、二重課税にあたる処分を受けた納税者が、争訟において救済を求めたとする。この場合、行政(不服審査機関)や司法(裁判所)は、課税要件法定主義を尊重し、かつ、伝統的な税法解釈〔文理解釈(literal interpretation)〕に基づき裁断すべきなのであろうか。あるいは、課税要件法定主義よりも〝公平な税負担(equity in tax)〟を優先させる見地から、司法積極主義ないし目的論的税法解釈論を展開し、当該処分を裁断すべきなのであろうか。
 これまで、「租税回避」については多角的に検証されてきている。一方、「二重課税」についてはさほど真摯な検証がされず、いまだ課題が山積している。事例によっては、「租税回避」と「二重課税」とを表裏一体で精査する必要性が高い。それにもかかわらず、個別に検討され、整合性のない裁断が下されている。「租税回避」と「二重課税」とを表裏一体で検証を重ねる必要性が高い。

《論文内容目次》
◆はじめに
I 二重課税の所在と対応的調整/排除を必要とする根拠
1 二重課税の対応的調整/排除を必要とする根拠
2 税法解釈論の展開と二重課税にあたる不利益処分事案の所在
(1)わが国における二重課税にあたる不利益処分とその法的効果
(2)税法解釈についての国際比較
  ①わが国における伝統的な税法解釈論
  ②英米における伝統的な税法解釈論
(3) 目的論解釈に傾斜する現代司法
  ①司法積極主義と目的論的解釈論の展開
  ②わが国における目的論的税法解釈論の展開
II 国内二重課税の類型と対応的調整/排除策
1 発生原因から見た国内二重課税の類型
2 多重賦課と対応的調整/排除策の是非
III 法的二重課税と経済的二重課税とは
1 経済的二重課税における法人擬制説と法人実在説の立ち位置
(1)アメリカ連邦税制における経済的二重課税の考え方
(2)わが所得課税における経済的二重課税の考え方
2 事業体の法形式の選択にかかる二重課税問題の所在
(1)パススルー課税と導管課税
(2)わが国における「みなし個人」課税制度の是非
  ①わが国での〝法人〟概念
  ②国税課税関係における「ハイブリッジ事業体」とは何か
(3)経済的二重課税か、租税回避か
(4)所得課税にかかる限界事例か、消費課税にかかる限界事例か
3 事業体の法形式の選択にかかる限界事例の分析
(1)アメリカにおけるパススルー課税とは
  ①パススルー課税の選択適用のある法人の比較
  ②S法人適格の審査制度から届出制度への転換
  ③C法人からS法人への転換に伴う二重課税回避防止措置
(2)ハイブリッド事業体に対するパススルー課税の適否
  ①LLC形態のハイブリッド事業体に対する所得課税面での二重課税が争われた事例
  ②LPS形態のハイブリッド事業体に対する所得課税面での二重課税が争われた事例
  ③問われる法人格の有無に傾斜して所得課税取扱を決めるルール
  ④外国パススルー事業体への投資にかかるもう一つの国際二重課税問題
(3)任意組合と組合員にかかる二重課税事例
  ①任意組合と組合員にかかる所得課税面での二重課税事例
  ②任意組合と組合員にかかる消費課税面での二重課税事例
3 留保金課税は経済的二重課税か
(1)わが国の特定同族会社に対する留保金課税
(2)アメリカの留保金課税
(3)アメリカのS法人に対する含み利得課税~二重課税回避防止課税
  ①含み利得課税制度のねらいは「二重課税回避防止課税」
  ②含み利得課税制度導入の背景
  ③含み損益の認識の時期
(4)アメリカのパートナーシップに対する含み利得課税回避対応策
IV 国際二重課税の類型と対応的調整/排除策
1 国際二重課税への対応的調整/排除策
(1)伝統的な国際二重課税への対応的調整/排除策
(2)電子商取引にかかる国際二重課税への対応的調整/対応策の必要性
  ①典型的な電子商取引/ネット取引の類型
  ②有形資産の国際電子商取引にかかるアマゾン事案の分析
(3)国際電子商取引にかかる「所得課税」と二重課税の排除
  ①国際機関OECDでの検討
  ②連邦国家アメリカでの動向
(4)国際電子商取引にかかる「消費課税」と二重課税の排除
  ①国際機関OECDの基本方針
  ②国家連合体EUの基本方針
  ③単一国家イギリスでの2002年EU/VAT指令の施行
2 連邦国家アメリカでの州際二重課税への対応策
(1)アメリカにおける「消費課税」法制の現状
  ①売上税と使用税とは何か
  ②州外小売事業者への消費課税と州内での物理的存在の有無
  ③アメリカにおけるサービスにかかる消費課税
  ④ネット配信サービスを通じた取引にかかる消費課税 
(2)アメリカでの電子商取引にかかる消費課税の適正化の動き
  ①実施された電子商取引にかかる消費課税の適正化策
  ②連邦のインターネット・アクセス料への課税禁止法の所在
(3)連邦法先占の法理とは
(4)〝アマゾン課税〟をめぐる訴訟の分析
  ①ニューヨーク州のアマゾン税法をめぐる訴訟の分析
  ②イリノイ州の〝アマゾン税法〟 をめぐる訴訟の分析
(5)連邦市場公正法の所在
(6)巨大ネット通販小売事業者アマゾンの変節
3 単一国家日本での対応策
(1)わが国での国際電子商取引課税のあり方
(2)無体財産/無形資産の電子商取引への課税の適正化
(3)実効的な徴税は未知数
◆むすび

規制緩和時代の私立大学運営と税財政法務

石村耕治 著     規制緩和時代の私立大学運営と税財政法務pdf-icon     
 
 「私学助成(補助金)」は、私学運営において重い役割を演じている。ただ、現在の国家財政状態などを勘案すると私学助成の大幅な拡充は望み薄であろう。また、現行の私学助成(補助金)のあり方は、私大財務の自律確保の面で問題も少なくない。とりわけ、私学助成(補助金)を規制ツールに使った私大に対する政府規制は加重である。近年の政府規制緩和の動き、大学の自治や大学財務の自律などの視点を織り込んで考えると、今以上に国家からの私学助成の依存する大学運営には慎重を期す必要がある。
 私立大学の財務運営の自律を考える場合、市場主義・市場原理の活用や税制支援の拡充なども視野に入れて、自助努力で大学運営費調達源の多様化の途を探り、学校法人の帰属収入ないし消費収入に占める経常費補助金への依存度を下げるのも一案である。仮に財テクを駆使し資金源を金融収益に求めることを広く許容するとした場合、緩和された政府規制に代わる自主規制の仕組みが求められる。もちろん、アメリカに見られるように、教育機関をはじめとした非営利公益法人一般に適用ある資金の慎重運用に関するさまざまな基準を法定するのも一案である。しかし、私大連盟のような機関が、現行の学校法人会計基準とは別途に、財テク時代にあった法人資金の慎重運用基準を自主的に定める途を選ぶ方が政府規制緩和の時代にマッチしているといえる。
 また、教育関連の税制支援(タックスインセンティブ)の拡充を検討する場合には、大学法人に対する「機関支援」はもとより、もっと教育研究サービスの提供を受ける側、つまり大学法人から見れば最大のステークホールダーである学生等やその保護者などの「利用者支援」を強化する視点が求められる。
 大学などを運営する学校法人の設立準拠法は私立学校法である。同法は、「社団」ではなく、「財団」をイメージしたかたちで法人制度を構築している。言い換えると、理事会が学校運営の最高の意思決定機関であり、学生や教職員は最大のステークホールダー(利害関係人)でありながらも、学校運営には直接かかわれない仕組みになっている。  
 たしかに、学校法人は、毎会計年度終了後2ヵ月以内に、財産目録、貸借対照表、収支清算書、事業報告書および監査報告書を各事務所へ備えておき、在学生その他のステークホールダーから請求があった場合には、正当な理由がある場合を除き、閲覧させる仕組みになっている(私立学校法47条、66条関係)。最近は、これらの財務情報をインターネットで公開する大学法人も多い。しかし、これは運営結果を開示する仕組みに過ぎない。こうした現行の学校法人制度を前提とする以上、ステークホールダーは、大学運営に異論がある場合などには、法人制度外の争訟手続ないし司法手続を通じて、学校運営への参加することを検討せざるを得ない。したがって、ステークホールダー(利害関係人)、すなわち、教職員や学生、生徒ないし児童(学生等)、さらには学生等の保護者、卒業生(alumni)など寄附金の出捐者、奨学金提供者、債券購入者など、を参加させたかたちで“私大財務の自律”を確保できる法制や手続のあり方を探る必要がある。この場合、立法政策的な視点も含めて精査する必要がある。
 以上のように、大学運営資金調達方法の多様化の途を探ることは、たんに自前の運営資金確保ないし拡大をねらいとすることのみならず、私立大学の財務運営を、これまでの補助金をツールとした政府規制に代えて大学のステークホールダーにゆだねる方向性を探ることにつながる。また、税金で賄われている私学補助金の使途について、とりわけ国税の納税者(国民)からの異論も反映させられる途を拓くことも財政法学上の重い課題である。
 もう一つ、私学助成(補助金)が私学への規制ツールと化している現状を変えるには、現行の機関補助の仕組みから利用者補助(教育バウチャー)の仕組みに変える途の選択も考えられる。この選択により、私学補助金を通じた大学法人に対する政府規制が緩和され、私立大学財務の自律を促す方向につながるのかなどは、とりわけ精査すべき重要な課題といえる。ただ、箸の上げ下げまで言われる現在の過重な政府規制のもとでの私大の運営のあり方に疑問すら持たない大学人がマジョリティを占めているのも現実である。また、大学設置基準等の存在が、いわゆる「学位工場(diploma mills)」の誕生や大学法人が提供する公教育サービスの劣化を防いでいるとの重い指摘もある。機関補助から教育バウチャー(利用者補助)の制度に転換したところで、アメリカ・コロラド州での“試行”結果を見る限りでは、国家の教育予算の削減だけが独り歩きするおそれも強い。加えて、大学教育バウチャーの対する新たな政府規制が出てくるおそれも強く、大学バウチャー導入への明確な理念や展望を描ける確信はない。

《論文内容目次》
はじめに
I 大学運営資金調達方法の推移
1 依存する大学運営資金からみた分類
2 わが国での大学運営資金調達方法の変遷
II 私立大学財務の現状分析
1 学校法人と私立大学との基本的な法的関係
2 学校法人と大学(学校)の運営、学校法人の会計/財務の基本
3 学校法人会計制度の基本
4 私立大学の平均的な財務状況の分析
(1) 私立大学の帰属収入の推移
(2) 私立大学の消費支出の推移
III 私立大学の運営資金調達源の多様化の課題
1 市場経済を活用し、高等教育無償化の理念の資する私大運営に向けて
(1) 私大の実例分析
(2) デットファイナンス活用の可能性
(3) 資産運用や収益事業の可能性
 (a) 学校法人の収益事業用資産に対する政府規制
 (b) 学校法人の資金/金融資産運用に対する政府規制
 (c) アメリカにおける大学法人の資産運用と慎重人原則の展開
(4) 寄附金収入確保の課題
2 市場主義、政府規制緩和時代における「公教育」を担保する仕組みのあり方
3 大学運営資金調達における「納入金負担者」の法的所在
IV私学助成(補助金)法制の基本
1 私学補助金の分類
2 私学補助金にかかる準拠法令等(文科省関係)
3 経常費補助金とは
4 施設・装備・設備整備費補助金とは
5 私立大学等の経常費補助金(一般補助・特別補助)額の推移
6 補助金の減額・不交付の仕組み
7 経常費補助金の減額法人一覧
8 私学助成(補助金)にかかる公的規制/監督の構図
(1) 私立学校法、私学助成法と補助金適正化法による私学補助金規制/監督
(2) 会計検査院などによる私学補助金規制/監督
(3) その他の私学補助金規制/調査
(4) 納税者による法的統制の可能性
V 私立大学運営と税制上の措置と課題
1 現行の学校法人に対する主な税制上の支援措置
2 学校法人、ステークホールダーへの所得課税上の支援措置強化の課題
3 税制における国公立・私立イコールフティング(競争条件の均等化)の課題
4 寄附金税制のあり方
5 消費課税上の支援措置の見直し~ゼロ税率採用の是非
6 資産課税上の支援措置の適正化
VI 機関補助から利用者補助への転換を問う
1 機関補助から教育バウチャーへの転換を検証する
2 アメリカでの大学教育バウチャーへの転換実例
(1) コロラド州の大学教育利用者支援制度の対象となる大学
(2) コロラド州の大学教育利用者支援制度のあらまし
(3) COF奨学給付額の推移
(4) COF奨学給付制度導入時の在籍者への調整措置
(5) コロラド州の大学教育利用者支援手続のあらまし
(6) コロラド州が利用者補助の仕組みに転換した背景
(7) 州内の公立大学を「企業体」に指定することの意味
(8) 州内の公立大学が「企業体」指定を受けた場合の影響
3 わが国での大学教育バウチャーへの転換イメージ
4 大学教育バウチャーへの評価
むすび