国民税制研究第4号の発行によせて

EVシフトの動きが加速しています。化石燃料などを必要としないEV(電池自動車)全盛の時代に突入し、道路財源を確保するためには、これまでの自動車燃料税から自動車マイレージ税/課金(走行距離税/課金)への移行・転換が待ったなしです。与党の2019年度税制改正大綱にも、走行距離税への転換にむけて、自動車関連税制の抜本的な見直しに着手することがうたわれました。

国民税制研究4号(以下「本号」)掲載の【論説】「EVシフトと道路財源の今後」では、サブタイトル〝自動車燃料税から自動車マイレージ税/課金への転換と人権〟にあるように、自動車税の抜本改革のあり方について、日米比較を中心に、市民の移動の自由・公道通行権や、走行情報(デジタルデータ/ビッグデータ)にかかるプライバシー権の保護など「人権論」を含め包括的に分析しているのが特徴です。プライバシー権その他の市民の人権抜きの走行課税案が浮上してくることへの警鐘を鳴らしています。また、税と課金(利用者負担金)のどちらを選択するのかも、市民の訴訟上の権利尊重の面で、重い課題であることを指摘しています。

わが財務省が2018年9月3日に公表した法人企業統計によると、いまや、わが国企業(金融・保険業を除く全産業)の2017年度の内部留保は、446兆円に上りました。第2次安倍内閣が発足する前の2011年度から164兆円も増加しました。内部留保への適正な課税で、賃上げや投資を促すべきとの声も強いわけです。

本号【研究ノート】《図説》「留保金課税法制入門」は、経済学や財政学、税法学などで語られてきている法人企業の「内部留保金課税」について、日米比較において、税法学の視角から、やさしくイメージし、図説したものです。〝営利法人の内部留保課税とは何か〟を日米比較で包括的に理解するのに役立つのではないかと思います。わが国では、内部留保課税の問題は、営利法人を中心に論じられてきました。しかし、無税スキームのなかで巨大化する非営利公益法人の過大な内部留保も問われています。

本号【論説】「トランプ税制改革:私立大学内部留保課税の導入~米私大の過大基本財産投資所得への課税理論と課題」は、アメリカで新たに導入された有名私大の内部留保所得への課税制度を詳細に分析したものです。2018年1月1日に施行されたトランプ税制改革法(TCJA)では、私大が抱える基本財産を投資して得た果実(リターン/投資所得)に対し、1.4%の税率で規制税を課すことにしました。この課税実施の背景には、公器であるはずの有名私大が、自らのキャンパスをタックスヘイブン(無税地帯)のようにみたてて、スタークホールダーである学生をそっちのけで、得意の金融工学を駆使し錬金・内部留保の極大化に走る私大経営陣に対する連邦議会の強いいらだちがありました。

本号【対論】「アメリカ私大のエンダウメント/基本財産の投資の実際」は、わが国の実情を含め、アメリカ有名私大の〝蓄財〟実務を知るうえで参考になるのではないかと思います。

以上のように、国民税制研究第4号(本号)は、オリジナルティのある現代的テーマを取り扱っています。税の研究者や実務家が、グローバル化の荒波と日本税制の立ち位置の一端を知るうえで一助となるのではないかと思います。

国民税制研究所(JTI)のホームページに機関誌『国民税制研究』第4号をJTIのホームページにアップします。今後とも、会員および一般市民の皆さまにJTIの支援を切にお願いする次第です。