第7回(新)現代税法研究会/日本大学法学部税法研究会例会は、2024年4月20日(土)午後3時から、以下のようなテーマの報告で、日本大学法学部2号館8階282A教室で、対面・オンライン(ハイブリッド)開催されました。多数の方々のご参加ありがとうございました。【現代税法研究会代表 石村耕治】

●研究報告 1
「韓国付加価値税の概要-仕入税額控除を中心に-」(
レジメ/資料クリック
阿部 徳幸(現代税法研究会事務局長/日本大学法学部教授・税理士)

●研究報告 2

「簡素」・「効率性」ファーストの税制を探る/もしトラ税制改革?
~米議会共和党の公平税法案(FTA)を読む
石村耕治(現代税法研究会代表/白鷗大学名誉教授)

今回の例会は、阿部報告および石村報告の2つを予定しておりました。

わが国でも2023(令和5)年10月1日からインボイス方式(適格請求書等保存方式)に転換しましたので、阿部報告は時機を得たものになりました。消費税(付加価値税)導入当初からインボイス方式を採用していた韓国の課税実務に対しては参加者の関心が非常に高く、研究報告1【阿部報告】に関する関疑応答が長くなりました。このため、時間的な制約から、研究報告2【石村報告】は、紹介程度にとどまる結果となりました。
折しも、わが国ではインボイス方式への転換や定額減税で税制が迷路のように複雑になってしまっています。「簡素」、「効率性」ファーストの税制を探るには、石村報告は、時機を得たものです。そこで、次回7月に開催する例会(第8回)で、改めて詳しい報告をしてもらうことになりました。

≪韓国付加価値税(消費税)の概要≫
阿部報告によると、「消費地課税原則/仕向地課税主義」に基づく韓国の消費型付加価値税(わが国の消費税)は、導入当初から事業者登録を求めるインボイス方式(つまり仕入税額控除/前段階控除はインボイスによる方式)だとのことです。税率は10%で軽減税率なし、免税(わが国でいう非課税)あり、ゼロ税率(わが国でいう輸出免税)ありの仕組みだとのことです。課税標準は、事業者(非営利を含む。)が国内で行う課税対象となる「財貨又は用役の供給」取引の対価の額だそうです。簡易課税制度もあるが、わが国でいう簡易課税制度とは別物とのことです。
なお、性差別課税ではないかと世界的に問われている「タンポン課税(女性用生理用品への消費課税)」では、韓国は、わが国より進んでおり、免税(わが国でいう非課税)項目に入っているとのことでした。

ちなみに、タンポン課税(女性用生理用品への消費課税)については、次の資料を参照してください。
TCフォーラム研究報告2021年6号
石村耕治「性差別課税と納税者の権利~問われるタンポン課税と納税者の権利」

≪韓国の仕入税額控除の要件~日欧との比較≫
阿部報告では、韓国の消費税(付加価値税)制における仕入税額控除(前段階控除)の要件が、「インボイス+帳簿の保存」なのかどうかが、報告および質疑応答の1つの核となりました。
わが国では、帳簿方式からインボイス方式に転換しました。しかし、消費税は迷路のように複雑になってしまい、租税原則の1つである「簡素」の理念から程遠い税・納税環境になってしまっています。とりわけ、インボイス方式へ転換したのであれば、適格請求書(インボイス)の保存があれば、仕入税額控除(前段階控除)を法認しないといけません。ところが、帳簿方式時代の要件をそのまま引き継ぎ、「帳簿及び請求書等の保存」を仕入税額控除の要件としています。これでは、事業者には、課税を強化しただけで、インボイス制度に転換したメリットをまったく感じられないわけです。
そもそも、消費税(付加価値税/VAT)は、取引高税(turnover)とは違い、事業者に仕入税額控除する権利を認める税金です。インボイス方式では、インボイスの保存があると、事業者に仕入税額控除権が認められて当り前なわけです。
阿部報告によると、韓国では、非違のある課税事例は別として、「インボイス」があれば、仕入税額控除は認められるようです。
ちなみに、付加価値税の伝統の長いEUでは、仕入税額控除の要件は「インボイス又は資料の保存」になっています。つまり、インボイスの保存があれば最適、なくとも他の資料があれば、仕入税額控除を認めるという姿勢です。この背景には、EUでは事業者に仕入税額控除権(the right to deduct input tax)を法認していることがあります。

EUの付加価値税(VAT)における仕入税額控除については、次の資料を参照してください。
TCフォーラム研究報告2023年4号【2023年6月20日公表】

わが国インボイス制度のカラクリ
「インボイス+帳簿の保存」は国際基準として通用するのか?
  石村耕治(TCフォーラム共同代表・白鷗大学名誉教授)

また、石村耕治編『現代税法入門塾(12版)』(清文社、2024年)362頁以下を参照してください。

≪韓国では電子(デジタル)インボイスが常識≫
阿部報告では、韓国においては、納税申告の電子化/デジタル化が進んでおり、記入済み申告書(prefilled tax return)制度が当り前になっているとのことでした。また、消費税(付加価値税)についても、電子(デジタル)インボイスが当り前になっているとのことでした。紙(文書)のインボイスは、保存の面から、そして不正防止の面からも、現実的ではなくなっているとのことでした。わが国でも、早晩、電子(デジタル)インボイスが常識になるのではないか、との指摘でした。
また、韓国の実情を織り込んで考えると、わが国でも電子(デジタル)インボイスが普及すれば、課税取引の24時間データ監視が可能になり、「簡素」の視点から、仕入税額控除の要件を「請求書等又は帳簿の保存」に改正して事業者の仕入税額控除権を法認する方向に舵を切っても問題がないのではないかとの指摘でした。
わが国では、現在でも、納税者は、法定申告期限内の申告内容に誤りがあると気付いた場合に、いわゆる「訂正申告」ができます(国税庁「申告が間違っていた場合」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/qa/07.htm)。電子(デジタル)インボイスでは、インボイスの記載内容に誤りがあると気付いた場合には、法定申告期限内であれば、何度でもデータを差替え入力し、容易に訂正できるのはないか、と指摘がありました。もっとも、この点については、現時点では、インボイス方式に変わったばかりで、しっかりした議論ができていません。
韓国の電子インボイスは、「ぺポル式」ではありません。一方、わが国では、EUの電子インボイスの仕様である「ぺポル式」を採用する方向です。(もちろん、現時点では、事業者はどのような方式の電子(デジタル)インボイスでも採用できます。売手側がデジタル(電子)インボイスを交付してきた場合、買手側は、電子帳簿保存法に従って保存することで、仕入税額控除の適用を受けることができます。)
わが国ではデジタル庁が船頭(Japan PA)になってぺポル式電子インボイスの導入に動いています。しかし、うまくいっていないように見えます。消費税が関連する取引を24時間絶え間なく電子監視するぺポル式の電子インボイス制度について詳しくは、次の資料を参照してください。
TCフォーラム研究報告2022年7号【11月7日公表:11月22日改訂】

ぺポル式電子インボイス/デジタルインボイスとは何か
~事業納税者の権利利益が護られてはじめてデジタル化はゆるされる
    石村耕治(白鴎大学名誉教授・TCフォーラム代表委員)
また、石村耕治編『現代税法入門塾(12版)』(清文社、2024年)352頁、644頁以下を参照してください。

≪銀行調査、滞納処分(預貯金の差押え)のオンライン化と人権≫
阿部報告に関する質疑応答のなかで、税務調査、とりわけ銀行調査(反面調査)の電子化/デジタル化/オンライン化が問題になりました。
わが国では、NTTデータのピピットリンクというデジタルプラットフォーム(PT)を使って銀行調査の電子化/デジタル化が進められています。詳しくは、次の資料を参照してください。
TCフォーラム研究報告2022年3号

「国・自治体の税・保険料取り立て業務デジタル化の人権問題」
~広がる反面調査・銀行照会業務のオンライン化~

石村耕治(TCフォ-ラム共同代表/白鷗大学名誉教授
NTTデータのピピットリンクというデジタルプラットフォーム(PT)を使った銀行への反面調査)の電子化/オンライン化に加え、最近、銀行の預貯金差し押さえ(滞納処分)電子化/オンライン化も進展しています。実情については、資料「日経24年4月10日朝刊「預貯金差し押さえ電子化」(資料クリック)を参照してください。

≪旗立てだけの税務専門職界、納税者団体では納税者の権利は護れない≫
わが国政府はDX化を急速に進めています。しかし、電子化/デジタル化/オンライン化に伴う納税者の権利を護るための手続整備について、まったく後ろ向きです。財政当局は「納税者は義務主体で、権利主体ではない」とのスタンスを維持し続けています。その結果、隣国中国の権威主義国家のDX化政策、データ監視国家つくりと似たような状況が続いています。
阿部報告では、韓国も久しくデジタル監視を強める税務行政一辺倒状態が続いたとのことです。近年ようやく国税基本法の改正による納税者権利憲章の発出など、西欧的民主主義価値観に基づく納税者の権利ファーストの議論が緒に就いたところだとのことです。
わが国の税務専門職界や納税者団体は、新たなデジタルの仕組みが出てくると、「反対」のムシロ旗(赤旗?白旗?)を揚げるのは大好きです。しかし、具体的な納税者権利保護立法となると、「役所にお任せ」になります。対案(議員立法案)も出せません。これでは、ゾンビ化し、絶滅危惧種になるのは避けられません。
ひ弱な税務専門職界や納税者団体は、押し寄せてくる電子化/デジタル化の大波に呑み込まれてしまっています。電子化/デジタル化の荒波に乗ってサーフィンを楽しむことができず、おぼれてしまう税理士の廃業が続いています。いままさに、リスキリング(学び直し)して、インフォメーションテクノロジー(IT)、デジタル化の知見を豊かにし、這い上がる自助努力が求められています。

*税務専門職、研究者、院生などで、現代税法研究会例会に参加されたい方は、国民税制研究所(JTI) info@jti-web.net 「現代税法研究会事務局」あてに「4基本情報+職業+メールアドレス」を記載のうえ、メールでお申し込みください。参加の可否をすみやかにお知らせします。